
デシル分析とは|顧客を10段階に分けて次の一手を決める
「お客さま全員に、同じメールを送り、同じクーポンを配る」。まじめに運用しているのに、開封もクリックも反応が薄い——そんなもどかしさを感じたことはありませんか。がんばりが足りないのではありません。多くの場合、効いていないのは熱量ではなく、力の“配り方”です。
お店の売上を支えているのは、実はごく一部の常連さんだったりします。なのに、たまにしか買わない人も、何度も買ってくれる人も、まったく同じ扱い。これでは、大切な人に手が回らず、そこまで響かない人に時間を使ってしまいます。
そこで役に立つのが、今日お話しするデシル分析です。むずかしい計算はいりません。お客さまを売上の大きい順に10等分して、「どこに力を注ぐか」を決めるだけ。まずは、肩の力を抜いて読んでみてください。
結論:デシル分析(デシル分析=お客さまを購入金額の大きい順に並べ、人数で10等分して、どの層が売上を支えているかを見る方法)を使うと、「誰に、どんな手を打つか」がはっきりします。やることは3ステップ。①ある期間の購入データをお客さま単位で集め、購入金額の大きい順に並べて人数で10等分する → ②各層(デシル1〜10)が売上全体の何割を占めるかを出す → ③上位の支え手には“感謝と特別扱い”、中位には“あと一歩の後押し”、下位には“無理をしない”と、層ごとに打ち手を変える。全員に同じ施策をやめるだけで、同じ労力でも手応えが変わります。
いま何が起きているか|「全員おなじ」が、いちばんもったいない
ネットショップの売上は、きれいに平らではありません。「上位2割のお客さまが、売上の8割を生む」と言われるように、ごく一部の常連さんが、お店を大きく支えていることがよくあります(あくまで一般的な傾向で、お店によって比率は違います)。
ところが現場では、こんなことが起こりがちです。
- 一番の支え手に、お礼が届いていない:毎月のように買ってくれる人も、1年に1回の人も、同じ「新規さん向け」メールを受け取っている。
- あと一歩の人を、取りこぼしている:2〜3回買ってくれて「もう少しで常連」という人に、背中を押す一言が届いていない。
- 響かない層に、力を使いすぎている:一度きりで離れた人を追いかけることに時間と割引を注ぎ、肝心の上位層が手薄になる。
全員に同じ施策をするのは、一見おだやかで公平に見えます。でも実際には、大切な人ほど「その他大勢」の扱いになってしまうのです。だからこそ、まず「誰が、どれくらいお店を支えているか」を数字で見える形にする必要があります。その最初の一歩が、デシル分析です。
デシル(decile)とは「10等分」という意味。お客さまを購入金額の大きい順に並べ、上から10%ずつ、10のグループ(デシル1〜デシル10)に分けます。デシル1がいちばん多く買ってくれている層、デシル10がいちばん少ない層です。層ごとに「売上への貢献」と「人数」を並べて見るだけで、お店の本当の姿が浮かび上がります。
具体例|デシル分析の3ステップと、層ごとの打ち手

身構えなくて大丈夫です。表計算ソフトがあれば、今日から始められます。
① 購入データを集めて、金額順に10等分する
まず、ある期間(たとえば直近1年)の購入データを、お客さま単位で用意します。1人のお客さまの、その期間の購入金額をぜんぶ足した「合計購入金額」を出すのがポイントです。注文単位ではなく、人単位でまとめます。
購入データは、使っているカートシステムの管理画面や、GA4(ジーエーフォー=Googleの無料アクセス解析ツール)のeコマースのデータから書き出せます。設定や書き出し方はGoogleのアナリティクス ヘルプ(公式)で確認できます。GA4で売上を見る基本はGA4でECの売上を見る最初の一歩にまとめています。
集めたら、合計購入金額の大きい順に並べて、人数で10等分します。お客さまが1,000人なら、上から100人ずつ、デシル1〜デシル10のグループに分けるイメージです。表計算ソフトなら、金額で並べ替えてから10個のかたまりに区切るだけです。
② 各層が「売上の何割」を占めるかを出す
次に、デシル1〜10それぞれの購入金額の合計を出し、「売上全体の何%か」を計算します。ここがデシル分析の心臓部です。
例として、こんな表になったとします(数字はすべて例です)。
- デシル1(上位10%):売上の32%
- デシル2:売上の18%
- デシル3:売上の13%
- デシル1〜3の合計:売上の63%を、上位30%の人が生んでいる
- デシル8〜10(下位30%):合計しても売上の5%ほど
この表を見ると、「上のほうの数層が、売上の大半を支えている」ことが一目で分かります。人数は同じ10%ずつでも、生んでいる売上はまるで違うのです。この差こそ、打ち手を変える根拠になります。
さらに一歩進めたいときは、各層の「1人あたりの購入金額」や「購入回数」も並べてみましょう。客単価(客単価=1回の注文で使われる金額)や購入頻度の違いが見えると、層ごとの性格がよりはっきりします。
③ 層ごとに打ち手を変える
ここからが本番です。層の性格に合わせて、手の掛け方を変えます。
- 上位層(デシル1〜2あたり=お店の支え手):まず伝えるべきは、割引ではなく感謝と特別扱いです。新商品の先行案内、限定の取り置き、ていねいなお礼のメッセージなど、「大切にされている」と感じてもらう施策を。ここを値引きで消耗させないのがコツです。くわしくはVIP・優良顧客を育てるロイヤルティ設計へ。
- 中位層(デシル3〜6あたり=あと一歩の人):ここは伸びしろです。「もう1回」「もう1ランク上」を自然に後押しする一言が効きます。おすすめ商品の案内、まとめ買いの提案、次回使えるクーポンなど。会員ランクやポイントの設計は会員ランク・ポイント制度の設計が参考になります。
- 下位層(デシル7〜10あたり=一度きり・たまに):ここで無理をしないのが大事です。全員を追いかけると、割引原資も手間も際限なくかかります。コストの低いメルマガやLINEでゆるくつながりを保ち、反応があった人だけ丁寧に対応する。離れた人を呼び戻す考え方は、別の記事で改めて。
よくあるつまずきと、その直し方
・1回の分析で満足してしまう:デシルは“今”の断面図。→ 季節やキャンペーンの影響もあるので、同じ期間の取り方で定期的に見直す。
・下位層を切り捨てと勘違いする:下位=不要ではない。→ 「力の掛け方を変える」だけ。新規さんや、これから育つ人も混ざっている。
・金額だけで決めてしまう:大口でも1回きりの人と、コツコツ常連の人は性格が違う。→ 購入“回数”も併せて見ると打ち手を間違えにくい。
デシル分析は、お客さまを「上下」で区別して優劣をつけるためのものではありません。限られた時間と予算を、いちばん効くところに届けるための地図です。地図があれば、やさしさも正しい方向に注げます。
あなたへの影響
- 同じ労力で、売上の伸び方が変わります。上位層への感謝施策は、割引に頼らず売上を支えてくれます。全員一律のクーポンをやめるだけで、利益を削らずに手応えが出ることも少なくありません。
- 広告費に頼りすぎない体質になります。すでに買ってくれた人を大切にするのは、新規を集めるより何倍も効率的です。1人のお客さまが長く買ってくれる金額(LTV=お客さまが生涯で使ってくれる合計金額)を伸ばす土台になります。
- チームの判断がそろいます。「なんとなく」で施策を決めていたのが、「この層にはこれ」と根拠を持って動けるようになります。数字は、現場の会話を前向きにしてくれます。
明日やること
- カートの管理画面かGA4から、直近1年ぶんの購入データをお客さま単位で書き出す(GA4でECの売上を見る最初の一歩も参照)。
- 合計購入金額の大きい順に並べ替え、人数で10等分して、デシル1〜10のグループを作る。
- 各層の売上合計と、売上全体に占める割合を出す。「上位30%が売上の何割か」をまずメモする。
- 上位層の顔ぶれを実際に眺め、まず送る“お礼・特別案内”の一言を考える(値引きから入らない)。
- 中位層に向けて、「もう1回」を後押しする案内を1つだけ用意する。欲張らず、1施策から。
デシル分析 はじめの一歩チェックリスト
- 分析する期間(例:直近1年)を決めた
- 購入データを「注文単位」ではなく「お客さま単位」で集めた
- 各お客さまの合計購入金額を出した
- 金額の大きい順に並べ、人数で10等分した(デシル1〜10)
- 各層の売上合計と、全体に占める割合を出した
- 「上位30%が売上の何割か」を把握した
- 各層の「1人あたり金額」や「購入回数」も並べて見た
- 上位層に、割引ではなく“感謝・特別扱い”の施策を考えた
- 中位層に、“あと一歩”を後押しする施策を1つ用意した
- 下位層は無理に追いかけず、低コストでつながる方針にした
- 次に見直す時期(例:3か月後・半年後)を決めた
数字は、お客さまを値踏みするためのものではありません。「どなたに、いちばん心を込めるか」を見失わないための道具です。今日、まずは直近1年のデータを金額順に並べて、上の10%を眺めてみてください。そこに並ぶのは、あなたのお店をいちばん好きでいてくれる人たちです。その顔ぶれが見えたら、次の一手は、きっと自然に浮かんできます。

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参考(公式・一次情報)
- Google アナリティクス ヘルプ(公式) — GA4でのeコマースデータの確認・書き出し